ステイトメント

……地下鉄で打ち合わせへ向かう途中に歩きながら、ふと、原画そのものが工芸性をもっていると気づく。なぜなら、影の存在だから。影といってもネガティブな意味合いではなく、存在を支える存在。光が表なら影は裏だが、裏なくして表は在り得ず、光あるところ必ず影の支えが在る。私は影の在りようが昔から好きでした。

……原画は影の存在で、原画そのものが絵画として自立する為に描かれない。けれども、たくさん印刷されてカタログを完成させる為の一部としての役目を果たし、より多くの人の目に留まり、服飾ブランドの志し(光)を支えることで活きる。

……原画の原は、野原の原、原っぱの原。原っぱで種が発芽し、木や草花となり、種子が風に吹かれ虫に運ばれ、時や場所をこえて、咲いては消えて消えては咲いて。原から生まれた画はところどころへ飛んでゆき、人の生の、日常の片隅に根をおろす。

    「原画考|工芸と影から」2023.1.6より抜粋

 

2019年の秋、一本の電話から始まった45Rシーズンカタログへ掲載する絵の原画制作。それから5年のあいだに九州から関東へうつり描いた原画は約130点。 

昨年は神楽坂にあるギャラリー工芸青花にて工芸と原画をつなぐような原画展をひらき、服部一成さんと沢山遼さんからご寄稿いただきました。このたびの鹿児島展では、カタログを時折に見ていただいた中山晃子さんに文を綴っていただき、原画や制作についての寄稿文を旅する紙もつくろうとしています。

 原画が影になったり種になったりしながら、絵描きを色々なところへ導いてくれて、何より嬉しく、ありがたいことです。

泉イネ          2024年4月


泉イネ 展「原画/2021-2023」
2024年5月25日(土)―6月30日(日)


泉イネ プロフィール 

画家、有無の間や余白、物や事、分野の境目を描く。

本にまつわる女性たちとの出会をきっかけとした「未完本姉妹」シリーズ(2008-)、ダンサー・振付家、批評家との絵のsession「And Zone」(上野の森美術館 2011)、休館日の美術館を舞台とし現代美術家、振付家と共同で企画した「休み時間ワークショップ」(DIC川村記念美術館2014)、描きなおすために佐渡島や真鶴半島、別府などへ通い住み、人と出合いながら 風景を紡ぐウェブメディア「shimaRTMISTLETOE」(2018-2021)、ZINE shimaRTMISTLETOE(2022)、別府で作り手を迎える場 team「(ゆ)」(2019-2021)などを通して、一人の絵の制作から思考や身体を離して新たな視点を探した。 近年の展示に2022年「紺|泉|イネ 1/3回顧展」(空豆)、グループショー「6 Artists」(Gallery Koyanagi)、2023年「原画」(工芸青花)。

GALLERIA MIDOBARU 客室壁紙の図案制作/別府(2020)、ファッションブランド「45R」シーズンカタログの原画制作(2020-)や「HERMES」ショーウィンドウデザイン(2010)など企業とのコミッションワークも手がける。