ステイトメント

由緒あるパリの石版画工房「IDEM(イテム)」にて、
2011、2012年のそれぞれ一か月ほど、石版画(リトグラフ)を制作する機会を得た。最初の年は資生堂ギャラリーの提案で実現したのだが、短期間の割には19点完成させることが出来たこともあり、この工房に来年も是非来て制作を続行しようと決意した。初めて触る石版の表面は滑らかで、天然素材の持つ温かみを手のひらに感じて、すっかり石版画に魅了されてしまった。
今迄、アルミ板やジンク版を用いたリトグラフは何点か制作したことはあるが、天然の石を使っての制作は初めてである。出発前に、この為のドローイングを描きためて持って行ったのですが、最初の1,2作を書くには役に立ったものの場所も方法も素材も何もかも違うフランスの伝統的なリトグラフの
技法は、むしろ私にとって何の束縛も無い自由な発想への手掛かりとなる場に変わっていった。同行した資生堂ギャラリーの元学芸員である森本美穂氏が、その後資生堂ギャラリーでの個展の為のテキスト「辰野登恵子 抽象-明日への問いかけ」の中で、その時の私の心境をこうのべている。「この工房は100年以上も同じ道具、システムで、ピカソらを含む数多くの作家の作品を生みだしてきた。であれば、そのシステムを信じ、自分がそれにのってみたら、これまで見えなかったものが見えてくるかもしれない。今、ここでしかできないことをやってみよう。」そんなわけで、翌年も当地に赴いて一心不乱に制作をして9点完成させた。その年は、今、自分が居るフランスという国を意識したくて、カラフルなトリコロールの配色を主体とするなど、今迄の制作原理には無いような私らしからぬ発想も芽生えて創ることの幸福感を味わった。


辰野登恵子 石版画展 「イメージは石の中から」
2013年10月12日(土)―12月15日(日)

Gallery

アトリエ

HANASAKAN Café Sweets

辰野 登恵子 Toeko Tatsuno

1950長野生まれ
1972東京藝術大学美術学部絵画科油画専攻卒業
1974東京藝術大学大学院修了