辰野登恵子さんと版画

辰野さんは長年にわたり、ペインティング作品と並行して断続的に版画を制作されました。

そこに求められたのは、仕上がりを想像しながら版の上で描くことの難しさや、技法ごとの技術的な制約を超えて版を作り、それがプレス機にかけられ刷り上がった時の驚きや新鮮さだったと思います。

キャンバスに向かって描き続けるのとは違い、版の作りを構造的に考えたり、プリンター(刷り師)という他者が介在して作品が出来上がっていく工程により、紛れもなく自身の作品でありながら、同時に他者の目で「初めて自作を見た時」のような不思議な感覚が生まれたのだと思います。

そのような版画制作による感覚的な刺激は辰野さんが時に冷静に絵画制作を捉え直すためにとても重要だったと思われます。

そしてその結果として生まれた版画作品は力強いペインティングなどと並び、辰野作品において重要で魅了ある一分野を形作っています。

エディション・ワークス 加山智章


辰野登恵子 版画展
2024年9月22日(日)―11月17日(日)


辰野 登恵子 Toeko Tatsuno

1950長野生まれ
1972東京藝術大学美術学部絵画科油画専攻卒業
1974東京藝術大学大学院修了

Mizuho Oshiro Gallery 展覧会開催歴

2013年 辰野登恵子石版画展「イメージは石の中から」

2005年 辰野登恵子展「新作版画、モノタイプ、タブロー」

2002年 辰野登恵子展「TWIN COLORS」